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仙台地方裁判所 昭和36年(行)2号 判決

原告 光本興産株式会社

被告 宮城県

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告会社代表者は本件最初の口頭弁論期日に出頭しないので陳述したものとみなした訴状によると「別紙目録記載の農地について昭和三四年一〇月三〇日被告がなした村岡元、村岡英人両名と栗原まきゑ間の賃借権設定の許可処分(賃借権譲渡の許可とあるのは誤記と認める)はこれを取り消す」旨の判決を求め、その請求原因として「被告は昭和三四年一〇月三〇日請求の趣旨記載の賃借権設定の許可処分をしたが、これより先原告会社は右農地につき仙台地方裁判所古川支部に対し抵当権実行の競売を申立て、同裁判所は右申立に基き昭和三四年九月五日競売開始決定をなしていたもので、前記訴外人らの賃借権の設定(賃借権の譲渡とあるのは誤記と認める)は抵当権者たる原告会社を害する意思をもつてなしたものであることは明瞭である。さればかかる賃借権の設定に許可を与えた処分は違法であるから原告会社は昭和三五年四月二〇日被告に対し訴願を申立てたが昭和三六年一月二四日却下された。よつて右賃借権設定許可処分の取消を求めるため本訴請求に及ぶ」というのである。

被告訴訟代理人は原告の訴を却下するとの判決を求め、本案前の抗弁として、被告は原告主張の如き行政処分をした事実がないのみならず法制上もさような処分をなすべき権限を与えられておらないのであるから原告の本件訴は被告とすべき相手方を誤つた不適法な訴であり、却下を免れないと述べ、

本案につき主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実中原告が本件農地につき主張の如き競売を申立て、競売開始決定のあつたことは知らない。その余の事実はすべて否認する。原告主張の賃借権設定の許可処分は訴外岩出山町農業委員会がこれをなし、これに対する訴願裁決は宮城県知事がなしたのである、と述べた。

理由

被告は原告主張の行政処分をした事実がないから被告県を相手方とする原告の本件訴は不適法であると主張するが被告が原告主張の行政処分をしたか否かは本案請求の当否に係る事柄であつて訴の適否の問題ではない(この点原告において他の行政庁が行政処分をなしたことを主張しながら右処分庁以外の者を被告として右処分の取消を求める如き場合とは趣を異にするものというべく、このことは法制上被告が原告の主張する行政処分をなす権限のない場合においても結論を異にしない)から被告の本案前の抗弁は採用しない。

そこで本案について判断するに、原告会社代表者は被告が本件農地の賃借権設定につき許可処分をなした旨主張するけれども、さような証拠は全く存しない。

してみると被告の右行政処分の存在することを前提とし、その取消を求める原告の請求はその余の争点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却すべきである。(請求原因中右許可処分を被告がなしたとの部分は岩出山町農業委員会がなしたことの誤記と認むべきものと仮定しても、該処分の取消の訴は右農業委員会を被告とすべきであり、又右許可処分に対する原告の訴願について宮城県知事が裁決を与えた形跡が窺われるところ、原告にしてもし右許可の原処分ではなく裁決処分の取消を求めるつもりがあるならば請求の趣旨としてその旨を明確にすべきであるばかりでなく、「宮城県」を被告とすることは誤りというべく、いずれにせよ、このままでは請求を棄却するの外はない)

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 飯沢源助 蓑田速夫 落合威)

(別紙目録省略)

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